刷り込みと取り入れ
先日、ある方より聴いた話です。
幼少期の母親の言葉が刷り込まれてしまい、頭から離れない。今は、母親にそのことについて嫌と言えるようになったが…と。
心理学の用語である「刷り込み」は「刻印付け」や「インプリンティング( imprinting)」ともいいます。動物のある特定の時期に、特定の物事が短時間で覚え込まれる現象です。ローレンツという研究者の鳥のヒナの実験で有名ですね。
生まれたばかりのヒナは動く物を何でも母鳥と思って後を追います。刷り込みには臨界期があって、学習できる期間が決まっています。カモなどの場合は出生後2~3日といわれています。学習というと、オペラント条件付けや古典的条件付けが知られていますが、刷り込みはこの条件付けではなく特殊な学習形態です。
アディクション(嗜癖)の分野では、この刷り込みを専門職の方が使用しているのを良く耳にします。しかし、刷り込みはこのように、生まれたばかりの動物に当てはまる学習の形態であって、成長したヒトには当てはまりません。
上記の方も、刷り込みと言いたかったわけではなく、実際は取り入れと言いたかったのだと思います。取り入れ(introjection)は精神分析の防衛機制(defence menchanism:心理的に安定するためのこころのメカニズム)の一つとされていて、他者の感情や価値観を自分のもののように感じることです。
この方は、今はお母様とも十分に対応できていますし、昔はこうだったというだけなので、刷り込みも取り入れも現在はあまり関係ありません。
もし取り入れたものがあるとしても、その取り入れたものを変えたいと思えば、人は変えることができます。ある考え方や感情を変える力を持っているのです。変えようとする力が、その人が変わることにつながります。
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